古木を活用した店舗実績No.1 居心地の良い木の空間づくりは山翠舎

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“古民家解体ゼロ”を目指す理由

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TALK|代表山上が語る

“古民家解体ゼロ”を目指す理由

“古民家解体ゼロ”を目指す理由

今、日本には800万戸の空き家があるといわれます。これが2033年には2,100万戸にまで増えるといわれています。日本のゴーストタウン化です。
そして古民家の空き家は現在21万戸。これも2033年には50万戸を超えると推測されています。空き家となった古民家のほとんどは、スクラップ&ビルドの流れで解体され、廃棄されていきます。
山翠舎では戦前に建てられた建物を古民家と定義しています。つまり解体で減ることはあっても、増えることはない。古民家は職人の手仕事でできた、在来工法の伝統を持つ日本固有の財産です。価値があるのです。解体せずに活用することで今の社会に新しいウェーブを作っていくことができるはず。そのためには、多くの人に参加してもらう必要がある。
山翠舎代表 山上浩明にそのビジョンを訊ねました。

(文・取材:岩田 和憲/2023年7月)

廃棄しない、無駄にしない。

山翠舎はいろんな事業をやってますけど、「古民家を廃棄しない、無駄にしない」という考えがすべて軸にありますね。

古民家の解体自体をゼロにしたいんですよ。
空き家になった古民家は全部山翠舎で借りる。買ってもいいんですけど、そこまで潤沢に資金があるわけではないので借りるわけです。
でも結局、買うより借りる方がいいんです。所有者の気持ちに立つと、売ってしまえば自分の家がなくなるわけで。先祖の思いも消えちゃう。
なので買うんじゃなくて借りる方が、その古民家が新しいかたちで活用されるようになったとき、所有者の方も一緒に盛り上げていこうっていう感情が生まれやすいんです。

古民家マッチングから生まれた旅館
古民家マッチングから生まれた旅館
竹林庵みずの

丸山ハナ子さんと「竹林庵みずの」の話はまさにそうでしたよね(*山翠舎のマッチングで長野の山里にあった丸山さんの古民家が熱海で旅館「竹林庵みずの」として再生し、その後も丸山さんと旅館オーナーの交流が続いた)。

竹林庵みずの

ただ解体をゼロにすると、山翠舎がこれまで飲食店の内装施工でやってきたような古木のパーツ利用ができなくなりませんか?

古木のパーツ利用はそんなにしなくていいんですよ。

どういうことですか?

そうはいっても古民家解体は生じるじゃないですか。
古木のストックは、それぐらいの量で十分だということです。

理想は解体ゼロだけど、現実として解体されてしまうものについては、古木をパーツとして利用していこうと?

やむを得ず解体が生じた場合は、古木も土壁も石も廃棄しない。
ただ実際問題として古民家を解体すると、古木をストックするスペースが必要になるわけですよ。それにも限界があって。
山翠舎で今、大町に5000本の古木をストックしていますけど、古民家一軒で100本の古木が取れるとして、それでもたった50軒ぶんの量にすぎない。たった50軒ぶんの古木で大町の工場がいっぱいになってるんです。 じゃあ、新たに5000万円をかけて倉庫を増設するのかというと、

無理がありますね。

山翠舎、大町の古木工場
山翠舎、大町の古木工場

それなら、古民家を解体せずまるごと再利用した方がいいという発想になるわけですよ。
古民家を古木にバラしてストックするのではなく、古民家としてまるごとストックする。そうすれば、屋根もあるので保管にも困らないわけですし。
そうやって管理物件を増やしていきながら、やむを得ず解体が必要となった古民家については、古木や壁の土や石もパーツとして再利用するというソリューションです。

なるほど。

地元企業の力が必要

結局、家は使われなくなるとどんどん劣化していくんですよ。人が出入りし空気の流入を作ることで、家は維持され、延命されていくんであって。
ただ、空き家化した古民家を山翠舎が借りて再利用していくといっても、山翠舎一社だけでは限界がある。それでFEAT.space(*空き家倉庫を蘇らせた長野市善光寺前の複合交流スペース)の場合だと、山翠舎ではなくリリース株式会社という会社を作って運営してるわけです。

FEAT.space

まだ実験段階ですけど、小諸の場合(*長野県小諸市で進めている古民家活用の町づくりプロジェクト)だと地域でそういう会社を作って、その会社で借りて貸せばいいという考えも出ているわけです。
古民家の家主さんからしたら、信じられる人、信じられる会社にしか貸したくないわけですから。

長野市善光寺前の複合交流スペース
長野市善光寺前の複合交流スペース
FEAT.space

山翠舎の本社がある長野市なら、会社としての基盤もあって地元との信頼は築けているからいいけど、小諸市や他県の都市だとそうはいかないということですね。

なので例えば広島で古民家を借りたいと山翠舎がいっても、なかなかそうはいかない。それだったら地場で信頼のある地元の会社が借りた方がいい。地元の企業が借りて貸せばいいわけです。山翠舎一社でやるんじゃなくて、全国各地で地元に根付いた企業がそうした動きを起こしていく。
それが町づくりにつながり、地元を盛り上げていくことにもなるわけで、しかも県という大きな単位ではなく、市町村のレベルでそういう動きを作り出していけるわけです。
そういう動きが全国的に広がっていく中で、山翠舎のある長野県が古民家解体ゼロの聖地になり、中心となっていこうと考えているんです。

「I」ではなく「WE」で取り組む

そもそもなぜ「古民家を減らしたくない」と考え始めたんですか?
そこにはサステナブルという言葉が世の中で聞かれるようになるずっと以前から、山上さんが抱いてきた環境に対する思いありますよね?

FEAT.spaceにて
空き家に残った古書も捨てずにリニューアルした空間に陳列している。FEAT.spaceにて。

なんで古民家をなくしたくないかといったら、結局、素晴らしいものだからですよ。100年という単位での味わいがある。「これをなんで捨てるんですか?」っていう話です。
でも現実は、この10年で10万戸の古民家が失われているんです。
私たちのソリューションとしては、空き家となった古民家を借ります。買います。そして居心地の良い空間に改装して、例えばパン屋になります、物販店になります、コワーキングスペースになります。
こういうことを一社でやるんじゃないんです。こうして蘇った古民家を運営する地元の会社があって、私たちはその媒体になる。古民家の家主さんと事業者の間に入ってうまくやれるようにしますよ、と。
今の不動産業界の通例だと、借りて施工しておしまいなんです。運営のリスクはテナントに求めるやり方。でも私はそういうのが嫌だから「リスクもこっちでシェアしますよ」と。
だから低い家賃にして事業者のリスクを少なくする。でもそうすると私たちが商売にならなくなるので、売上連動にさせていただく。リスクを抑えながらお互いメリットのある家賃設定にすることで、「一緒にまちづくりをやっていきましょう」という考えなんです。
一緒にやろうってなれば、関係者に仲間の輪ができてみんながお店に来てくれる。そういう流れが作り出せるわけじゃないですか。
そうやって自分ごとにしていく。「せっかく外食するのなら古民家や古木のお店へ行こう」ってなれば、サステナブルなアクションに繋がっていくことになるでしょ。
「サステナブルな社会にするために欲望を我慢しましょう」だと肩肘の張る重たい話になるんですけど、「居心地のいい古民家の店で美味しいものを食べましょう」だと、ストレスのない楽しい方向性になりますよね。

仲間の輪を広げていくというので、以前、古木を使ったお店で食事をすると古木ポイントが貯まるという構想もありましたね?

それもやりたいことなんですけど、もう少し発想を前進させて、山翠舎に接点のある方々は会費無料の山翠舎会員になっていただく。そうすると山翠舎が作った500店舗で、ビールやジュースが1杯無料になる、山翠舎がお金を支払って500店舗の集客を担う、みたいな。GoogleやFaecebookにネット広告を出すより意味のあるお金の使い方だと思うんですよ。
それでいうと、今までは「山翠舎はこういうことをやってます」みたいな一人称の「I」として語っていたんですけど、これからはそこを「WE」にしていきたいんですね。
山翠舎が古民家の事業を頑張ってます。古民家や古木を活用して作ったお店の方々もそれぞれのお店単体で頑張ってます。そこのところをもうちょっと団結していけたら、面白い広がりが出るんじゃないかなと思ってるんです。

空き家の土蔵を改装しパン屋となった
空き家の土蔵を改装しパン屋となった。
信州門前ベーカリー 蔵

環境に優しい空間を選ぶ、という視点。

古木を再利用した空間というのは、本来なら廃棄されて燃やされCO2が排出されるところをそうさせなかったことになるわけで。つまり空間自体が脱炭素という見方ができるんですよ。

確かに。

こういう視点って、アパレルや車の世界では定着してきてるんですけど、空間に対してはなかったわけですよね。ただ「このお店は落ち着くし居心地がいいよね」っていう視点で空間を見て、古民家や古木を使った飲食店を選んで入るということはある。
もしそのときに「居心地のいい空間」だけじゃなくて、「へえ、古民家を活用して作られているから環境にいいお店でもあるんだ」と。もしそのことを「面白いね」って思ってくれるんだったら、「あなた自身が古民家を活用して店舗を作るまではしなくいいし、古木も買わなくてもいい、でももしそのことに共感してくれたのであれば、せっかくなら古民家や古木を使ったお店をまた選んで料理を食べに来てほしいな」と。
食欲という欲を満たす場でそういうことにちょっと触れてもらうだけで、古民家の活用につながるわけです。それだけであなたはもうこの活動に貢献していることになり、WEの活動員になるわけですよ。
そうやって古い木を使ったお店に客がくればくるほど、古い木を使ってお店を作りたいと思う人も増えることに繋がるわけで。

面白いですね。アパレルや車だけでなく、空間もグリーンという視点で選ぶ時代がやって来る、ということですよね。

そんな感じで、共感からものを買うというトレンドを古民家で作り出せたらな、って思ってるんです。
その考えで、今の山翠舎のWEBサイトとは別に、サステナブルという文脈の中でグルメガイド的なWEBサイトを作りたいなとも思ってるんです。
このお店は料理も美味しいし、居心地もいいし、環境にも優しい、と。美味しいとか居心地がいいとかは食べログとか見ればわかるかもしれないけど、お店選びの第三の軸として「環境にも優しい」が加わるわけです。
美味しくて、居心地も良くて、環境にも優しいお店を紹介したWEBサイト。そんなエンドユーザー向けのサイトを作ることによって、古民家解体ゼロに向けてみんなで参加型のウェーブを起こしていくことにも連動するんじゃないかなと思っているんです。

コワーキングスペース
空き家を再生して作られた長野県小諸市のコワーキングスペース
合間

大工の学校を作ろう

長野県大町市に大工を育てる場所を作るというのも、このままだと職人の世界が失われていく。やはり古民家と同じ、失われることへの危惧があるわけですか?

建築業界のあり方が変わったせいで、今、大工や職人が減っているんですよ。ほんとに、いないんです。
古民家も大工もそうですけど、すべて山翠舎はダウントレンドに挑んでいるところがあるんですよね。市場が狭まっているところに向かって、「そこを自分がやらなきゃ」みたいになってる。逆転の発想でそこに可能性を見ているわけですけど。
例えば、大工志望の方が岡山から長野の大町にやってくる。2年か3年見習いで働いて、それからまた岡山へ帰っていくとするじゃないですか。岡山だけでなく、全国から大工になりたい人が山翠舎の大町に来て、ここで何年か研鑽してから故郷へまた戻っていく。
そうすると山翠舎が岡山で何か仕事をやることになったとき、大町で修行し大工となったその人が核となって一緒に仕事ができるかもしれないわけですよ。海外からでもいいわけです。フランスから修行に来て、フランスに帰っていく。
わかりやすく大工の学校といってますけど、仕事を通して実地訓練していける場所にしたいなと思ってるんです。

古民家を守ろう、大工の仕事を守ろうということには、山上さん自身のルーツも関係してますよね?

結局、私が大工に囲まれて育ったからでしょうね。自宅の目の前に父が経営する木工所があって、そこで木の端材を使っていろいろ作って遊んでたんです。幼い頃に大工さんたちにはいろいろお世話になったから、その恩返しをしたいというのはありますね。

手仕事で古木の加工
長野市大町の古木工場では、職人たちが手仕事で古木の加工をしている。

手仕事 x A.I.で時代の選択肢をつくる

結局、大工の技術もそうですけど、職人が手仕事で作ったものは応用力があるんですよ。
このあいだ、少し太ったのでオーダーで作ったジャケットとズボンを直したんですね。そしたら7cmも出せたんですよ。「どこにその余裕を作ってあったんだ」と感動したんです。既製品のジャケットだとこうはいかないと思うんです。
建築もそうで、大工たちが手仕事で作った古民家があると。柱でも水に当たる部分は腐ります。腐ったらどうするか。その部分だけ切って新しい部材で継手して、また一本の柱にできるわけです。
こういうパッチワークのようなことって、在来工法だとできるんですね。全部建て替えしなくても、その部分の手間だけで修復可能なのは手仕事でしかできない技で、それを大工がやっている。その仕組みで、法隆寺のような建築物が1300年以上ももつわけですよ。
でも現状の建築の世界は、スクラップ&ビルドしちゃってるわけです。それだと環境負荷が高い。
残念ながらスクラップ&ビルドが今のメインストリームで、大工の世界、古民家を支えてきた建築のあり方がトレンドではないのは事実です。工業製品化して安くし、品質を安定させよう、不確実性を減らそう、っていう流れで建売住宅ということになってるわけですから。
ただその真逆の世界でも、AIやロボットを活用しながら戦っていく、スターウォーズのようなレジスタンス的なアプローチはできると思ってるんですよ(笑)。
ある程度コモディティ化できるものはAIとかロボット化して、人間じゃなくてもできる加工は例えばアーム型のロボットで加工する。そうすることで価格を抑えながら、逆に職人が手仕事でやる場所を際立たせていく。
AIもフルに活用することで手仕事の世界を守る。そういう新しい選択ができるだろうなと思ってるんです。

リユースしたソファーの上
リユースしたソファーの上で。FEAT.spaceにて。

「代表山上が語る“古民家解体ゼロ”を目指す理由」はこれでおしまいです。
お読みいただきありがとうございました。

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