インタビュー

昭和の佇まいを残す店々を左右に、都電荒川線がゆっくりと走り抜けていく。
そんな東京の下町に、2018年の2月、「旬膳燗 はせ川」がオープンしました。和食料理人の長谷川翔さんと、奥さんでバーテンダーの麗さんが営む小さなお店です。
純米酒の燗酒をちびりちびりと飲みながら、旬の食材を使った和食料理を楽しんだり、はたまた夜更けの2軒目選びで、洋酒のバーとして利用したり。夫婦2人、それぞれの個性を活かしたお店づくりに、個店ならではの良さが綺麗に映し出されています。
オープンから2年半が過ぎた2020年の10月、お店を訪ね、長谷川さんご夫婦にお話を伺ってきました。
(2020年10月27日 取材)
— まずどんなコンセプトのお店になりますか?

長谷川翔さん(以下、翔)

コンセプトは和食と純米酒のお燗酒がメインのお店ですね。

あとはまあ、奥さんがもともとバーテンダーで洋酒もたくさんあるので、食事だけじゃなくてバー利用もできるっていう感じですね。

— その、純米酒でお燗酒、なんでそれでいこうと思われたんですか?

翔

もともといた職場が同じようなコンセプトでやってたんですけど、日本酒っていうのはお米でできているものなので、まあ、温かいご飯と冷たいご飯だったら、温かいご飯の方が当然美味しいじゃないですか? 日本酒もそれと同じでっていう、わかりやすい考えでお客さんには伝えてるんです。

実際、そのほうが料理に合わせやすかったり、急にグラっとくるような変な酔い方はしないでゆっくり酔えるっていうことで、お燗をお勧めしてます。

— まさにこのお店はゆっくりしてもらう場所なんですね。

翔

そうですね。わりとお客さんの滞在時間も長いですし。

— 長谷川さんはずっと料理人としてやってこられた方ですか?

翔

主に料理ですけど、前の職場がオープンキッチンのお店だったので、日本酒とかも自分でしっかりテイスティングして勉強してたので。料理をやりつつ、日本酒の勉強はしてましたね。

— 長谷川さんの、このお店を立ち上げるまでの経緯はどんな流れだったんですか?

翔

19歳から浦和にある和食の居酒屋に入って、そこからずっと同じ会社でまる12年間ぐらい働いて。で、そのまま独立という感じです。

で、その同じ会社にバー形態の店もあって、奥さんはそこで働いてて、

— ああ、そこで知り合われたんですね。

翔

そうですね。

— そしてオープンが、

翔

2018年の2月5日です。

— 山翠舎を内装施工で選んだのにはどんな経緯があったんですか?

翔

知り合いの飲食店で、内装を山翠舎さんでやっているところが何軒かあって。「ろっかん」っていう荒木町のお店とか、「煮込みや まる。」さん、ですかね。

— それを見て、

翔

そのときにろっかんの福田さんに紹介してもらって、

— それはテイストがいいなあと思って?

翔

そうですね、はい。木材を多く使っていて、いいなあと思って、「どこでやってるんですか?」ってダイレクトに福田さんに訊いて教えてもらいましたね。

— 実際、山翠舎とやってみてどうでしたか?

翔

細かい点まで僕らの要望通りにやってもらえたので、すごい良かったですね。

— 特に内装でこだわったポイントは?

翔

この壁は、もともと僕の付き合いのある酒屋さんが、酒蔵さんからもらった木桶の板で作ったもので。

その木桶の板をぜんぶ分解して、山翠舎さんに「これをどうにか使ってもらうことはできますか?」という感じでお願いして作ってもらったんです。

— こうやって壁材で使うというのは長谷川さんのアイデアだったんですか?

翔

いや、まったく(笑)。

僕は「これをなんか上手いこと使って作ってください」っていうのをお願いしただけです。

これはほんと、お客さんも見てびっくりされますね。

— この入り口の佇まいは町屋風をイメージされてるわけですか?

翔

そうですね。

この辺は下町で、大衆的で賑やかなお店が多いので、少し落ち着いたイメージのお店の入り口にしました。

— この場所でオープンしようと思われたのは何か理由があったんですか?

翔

僕は生まれがこの辺なので。

— 地元なんですね。

翔

はい。西尾久の生まれなので。

— 店の名前に旬、膳、燗、とあるんですが、これは何か意味を?

翔

僕が尊敬する人の料理屋さんから一文字ずつ取って。

「旬の味 みなと」、「季膳 いかわ」、「食と燗 くら川」ですけど、それぞれ一文字づつですね。

— ちなみに料理についてのこの店ならではのこだわりはありますか?

翔

100%ではないですけど、なるべく関わりがある生産者さんからとってますね。

前の会社にいたときから取引してる業者さんもたくさんありますけど、まあ、このお店を始めてからも、いろいろ紹介してもらったりとか。そういうのがどんどん増えればいいなあと思ってやってます。

— どんな理由で、繋がりのある生産者さんから仕入れることを大切にされてるのですか?

翔

特にうちはカウンターがメインのお店なので、やっぱりお客さんに料理を提供するときに食材にストーリーがあったほうがお客さんも喜んでくれる、それが大きいですね。

あと、実際に食べてみたり飲んでみたりすると、ぜんぜん美味しいんですよね。

自分が好きなものをお客さんに勧めたいなあ、っていうのはありますね。

— オープンから2年半やられてきて、どうですか?

翔

自分の地元にオープンしたのでこの辺のお客さんが当然ターゲットになってるんですけど、当初想定していた以上に、それ以外にも他のお店さんの紹介とか、それこそ日本酒での繋がりとか、いろんなところから来てくださるお客さんが多くて、ありがたいですね。

— 奥さんはバーテンダーなんですね?

長谷川麗さん(以下、麗)

はい。

— 「バーテンダーがいることの強み」みたいなものは、このお店にとってどんなカタチになってるんですか?

麗

うちの大きなテーマは、和食と日本酒の燗酒を合わせることなので、「わたしは出しゃばっちゃいけないな」って当初は思ってたんです。

だけど、意外と「和食を食べたいんだけど日本酒が体質的に受け付けない」っていうお客さんだったり、「今日は日本酒はいらない」っていうケースがあったりで。

そんな人でも選べる要素がいろいろあるのはいいことかな、って思うようになりました。

— ご主人の作る和食の料理と洋の酒っていうのは、意外と和洋でもマッチするものなんですか?

麗

というより、どちらかというと食後に少しカクテルを飲んだりとか。そういうのがうちは多いかなあ。

翔

わざわざ食事の時に洋酒のハードリカーを合わせたりとかっていうのはうちはやらないですね。

麗

和食に合わせてっていうよりは、この辺はあんまりバーもないので、逆に食事メインじゃなくて、バー利用みたいなのもしてもらえたらいいなあと思ってて。

— ああ、なるほど、2つの楽しみ方を提供できますよっていうことですね。

これから何年も続けていかれるのだと思うんですけど、どういうお店になっていきたいなあっていう夢はありますか?

翔

やっぱりその、使ってる食材ぜんぶとはいかないですけど、なるべく繋がりのあるものをこれからも仕入れたい、それをお客様に提供していきたいっていうことが一つ。

あと、1軒目として利用いただく場合がほとんどなんですけど、この辺はバーとか夜遅くまでやってるお店ってそんなに多くないので、ふらっと2軒目みたいな感じで、ゆっくり1、2杯飲んでもらえるようなお店にもなっていきたいなって思いますね。

— 今日はありがとうございました。